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2012年1月12日 (木)

「動き」は実在するか?

 我々人という観察者は、世界に「視点」を与える存在である。観察者がいない世界には、「視点」が存在しない。特定の「視点」を持たない世界を記述するためには、「無限の視点」を想定せざるを得ない。慣性系は全てそれに寄り添った「視点」からは静止系である。「無限の視点」によって全ての慣性系を静止系と見なすことが出来るなら、世界は静止しているとさえ言える。つまり「動き」は存在しない。「飛ぶ矢」は止まっている。そんな戯言をここ最近の記事で書き綴ってきた。

 屁理屈の連続で言葉遊びみたいになってしまったので、少し具体例でも挙げて考えてみよう。

 ボールを投げることを考えてみよう。テニスボールがいい。ボールは手から離れて遠くへ飛んでいく。ボールは明らかに「動い」ている。これについて、実はボールは止まっていて、投げた本人が全力でバックダッシュしているのだ、などという人はおるまい。

 さて今度は、投げる人に宇宙服を着せて、そのまま宇宙空間に舞台を移してみよう。上下左右近くに惑星なんかのない漆黒の闇の中がいい。ボールを投げると、ボールはやっぱり遠くへ飛んでいく。例え舞台が宇宙空間でも、「動い」ているのは投げた方だなんて言う人はいないだろう。しかし、宇宙空間は足場がないので、投げた反動で、投げた人はくるくる回り始めるかも知れない。そんなシーンを宇宙中継とかで見たことがあるはずだ。

 この「反動」を使って宇宙空間を進むのが宇宙船だ。宇宙船はおしりから爆発物を噴射しながら前進する。言ってみれば、テニスボールを後ろに向かって何個も何個も投げ続けるようなものだ。この辺から既に「動く」のは何なのか曖昧になってくる。宇宙船はその場にとどまったまま、ひたすら噴射物を遠くに投げ続けている?いやいや誰でも宇宙船の方が「動い」ていると考えるだろう。

 さて、宇宙空間でテニスボールを投げる人の方に話を戻そう。今度はテニスボールをだんだん大きくしていく。サッカーボール大でも、まあ「動く」のは人ではなくボールの方だ。一気に話を大きくして、小惑星は?それでも何とか努力すれば投げられそうだ。でも小惑星を「投げた」本人も、小惑星が動いているのか、自分が跳ね返されて飛んでいっているのか自信が無くなっているはずだ。さらに大きくして月はどうか?
 月を頭の上に持ってきて、投げる動作をすることぐらいは出来るだろうが、それによって実際に宇宙空間を「動い」ていくのは、投げた本人だろう。しかし、ひょっとしたら投げた本人は、月を「動か」したと思っているかも知れない。月を投げられたら爽快だろうなあ。

 だがここで、宇宙に絶対的な慣性系は存在しない、という条件が大きな意味を持ち始める。それはつまり慣性運動をしている限りにおいて、その物体が「地球上から見て」静止していようが、光速の10%で走っていようが、本質的な違いはないと言うことだ。宇宙に基準となる座標や、基準となる速度がないというのだから。宇宙の全ての場所、全ての慣性状態で、同じ物理法則が成り立つというのだから。
 月を投げる直前、頭の上に持ってきた月に手を添えたところまでは、月と「月を投げる人」は同じ慣性系上にある。月を「投げた」瞬間、加速による作用反作用が起こって、月と「投げた人」とはそれぞれ反対の方向に「動き」始める。元の慣性系を基準にすれば、月はほとんど動くことなく、「投げた人」が自らの後方にはね飛ばされていることになる。しかし、次の瞬間に月と「投げた人」はそれぞれ異なる慣性系に乗っかる。つまりそれぞれがそれに寄り添う「視点」からは静止系となる。
 だから「月を投げる」という行為は、「月を投げる」または「月にはね返される」のどちらかに決めつけることは出来ない。宇宙全体から見れば、それらはそれぞれ別の「静止系」に分裂しただけだ。

 「動き」は視点をどこに置くかによって決まる。全ての「動き」はそれに寄り添った視点からは、静止している。「動き」は動いている物体自体の本質ではない。一定の「視点」からそれを観察している者の認識の結果に過ぎない。

 我々の日常生活、例えばなめらかにキーボードを打つ指の動きも、慣性と加速の複雑な連なりに過ぎない。指の一つひとつ、さらには我々の体を構成する原子の一つひとつに「視点」を寄り添わせるならば、それは静止している。

 「動き」は人間の認識の結果として存在している。「飛ぶ矢」は止まっている。


追記

 うーむ、ゼノン(飛ぶ矢のパラドックスを考えた古代ギリシャ人)と話がしてみたくなってきた。だれかタイムマシンを発明してくれい。(おや^^;)

 

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