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2015年11月 8日 (日)

即興短編小説『鹿、怒り』

 とある(生徒の)研修会で、「鹿」と「怒り」という二つのキーワードを使って30分で創作小説を作れというイベントがあったので、本来参加する必要がないところをおもしろがって参加して書いたのが以下の短編小説(?)である。


 『鹿、怒り』

「動物のつのは昔、薬代わりになっていことがあってね…。」
 山小屋でたまたま一緒になった男は突然そう語り始めた。
「なぜあんなものが薬になるのか、長い間不思議に思っていたけど、ある時その理由が分かったような気がしてね。」
 白い息を吐きながら男は続けた。
「ある日、一人で一度も登ったことのない山に入り込んで、どちらが頂上かもわからなくなってしまって、しばらく座り込んでいたんだ。」
「すると目の前に鹿がいた。座り込むまでそれに気づかなかったんだ。鹿はなんだか悲しそうに見えた。鹿の表情なんてわからないし、なぜ鹿が悲しそうに見えたのか私自身にもわからないんだけど、なぜだかそう思ったんだ。見ると鹿のつのは折れていてね。奈良の鹿なんかもつのを折るじゃない。ああいう感じさ。」
「見ているうちに、鹿のつのが少しずつ伸び始めたんだ。最初は目の錯覚かと思ったんだけど、確かに少しずつ伸びている。でもその伸び方がなんだか苦しそうなんだ。額に青筋を立てるというじゃない。それがそのまま形になったようなんだね。」
「伸びる勢いがどんどん強くなって、伸びていることがはっきりわかるようになり、見慣れた鹿のつのになった。その姿はまるで鹿が自分の怒りを頭にのっけているようだったよ。私はだまってそれを見続けていた。」
「次の瞬間、つのがはじけた。はじけたように見えた。そして鹿は私の目の前から消えてしまったんだ。逃げたのか消えたのかさえわからないぐらいに一瞬の出来事だった。不思議なことに私の中のいくつかの『怒り』もそれと一緒に消えてしまったんだ。」
「だから私はこうして鹿を探してまた山をさまよっている。」
 そう言うと男は静かに立ち上がって小屋を出て行った。

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