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2017年3月26日 (日)

「量子物理学の発見 ヒッグス粒子の先までの物語」-量子色力学による「強い質量」-

 科学おたくの私は、おたくの名に恥じずこれまで数え切れないぐらいの関連書籍を読みあさってきたが、この本に出てくる「強い質量」という言葉を一度も目にしたことがなかった。

 「量子物理学の発見」は、ノーベル賞受賞者であり、実験物理学の伝説的存在でもあるレーダーマンの著書である。題名の通り、本の主要な内容は2013年に発案者がノーベル賞を受賞したヒッグス粒子発見までの過程を説明したものである。ヒッグス粒子が質量を生む仕組みについても分かりやすく説明されており、一時ネット界隈でもよく目にした「雪道の例え」に納得いかなかった人もこれを読めば少し心が落ち着くはずだ。

 さて、私が問題にしたいのはヒッグス粒子の話ではなく、この本の最終章の内容である。最終第九章になって突然論調が変わるのだ。

 第九章の項目中に「ヒッグス粒子自身はどうやって質量を獲得するのか」というものがあり、冒頭部分に次のように書いてある。

「標準理論で「フェルミ(引用者注・物質の基本単位となる素粒子)のスケール」を決めているのはヒッグス粒子の質量である。しかしヒッグス粒子がなぜその質量を持つのかについては、われわれはまだ何も知らないのだ。」

 これは奇妙な話だ。これは「宇宙の中心がどこなのかは分かったが、なぜそこが宇宙の中心なのかは分からない」と言っているようなもので、矛盾しているとしか思えない。一種の循環論法とさえ思える。

 「量子物理学の発見」にはさらには次のように書かれている。

「ヒッグス粒子の質量を説明できないというのは、かなりもどかしい状況だ。それは次のような事情による。「量子色力学」(QCD)は、クォークとグルーオン、そしてこれらの粒子間に働く強い相互作用に関するみごとな理論で、一九七四年に起こった一連の大躍進によって生まれたものである。そして、いったんその理論の中身が理解され、クォークとグルーオンの存在が実験によって確かめられると、この理論は「強い質量」の由来をきちんと説明してくれた。「強い質量」とは強い相互作用によって生じる質量である。実は一九五○年代から一九六○年代にかけて発見された多くの素粒子が持つ質量はそれで、陽子と中性子の質量の大部分も「強い質量」なのである。このことをもっと早く読者のみなさんに伝えなかったことを、お詫びしなければならないぐらいだ。(中略)強い質量は、QCDで発見された固有の質量スケールから生じたもので、ヒッグス粒子からではないのである。」

 以上の引用についてはいくつか疑問点がある。

 まず一つは、「このことをもっと早く読者のみなさんに伝えなかったことを、お詫びしなければならないぐらいだ。」の部分で、なぜこの本の大半をしめるヒッグス粒子に関する記述を、最終九章になって全て否定するようなことを書くのかということ。

 次に、「クォークとグルーオンの存在が実験によって確かめられると」の部分である。かつてクォークは陽子の内部に三つあるとされていたが、最近になって「無数のクォークが湧きたっている」といった解釈に変化してきているはずだ。そもそもクォークを単独では取り出せないことが「クォーク閉じ込めの原理」とされ、この謎が解ければノーベル賞確実なぐらいである。さらにはグルーオンはまだ理論上の存在であり観測されていないはずだ。

 さらに「この理論は「強い質量」の由来をきちんと説明してくれた。」の部分である。量子色力学は、陽子内部の三つのクォークの組み合わせが〜いくつかのパターンの三つの色の組み合わせが常に白になるように〜同一の条件結果に収束するというものだ。これは数学分野で一億円の懸賞金がかかっているミレニアム問題の一つである「ヤン=ミルズ問題」とほぼ同一の内容を持っている。ヤン=ミルズ問題はその一部に「陽子の内部に質量が生じることを証明せよ」という物理学に通じるものを含んでいる。そして、それは解かれていない。もし解かれていたら新聞の一面を飾るような大ニュースになるはずだ。


 さて、ここからがいつもの戯言である。

 「量子物理学の発見」にはさらに次のように書いてある。

「QCDは、強い質量のスケールがどこから生じるのかを、驚くべき方法でみごとに説明してくれる。それによれば強い質量は、なんと、量子力学そのものから生じているのだ。」

 これ以降、この本の記述は「漸近的自由」の解説に終始し、「量子力学そのものが質量を生み出すシステム」については一切触れていない。なんだか煙に巻かれてしまったという印象だ。

 ところで、量子色力学の考え方をベースに、「量子力学そのもの」をシステムとして質量が生じる様子を理論化したものが一つ既に存在する。それは物質の基本単位である素粒子を「球状の波」とする考え方だ。以下のページを参照していただきたい。

「量子という球状の波」(クリックして下さい)


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